« 2009年09月 | | 2009年11月 »

2009.10. 2.Fri

名前のない案内状

石川ちひろの絵にうなじという作品がある。
本人いわく、「ヤギ、好きなんですよねえ。。。とくにうなじにうっとり。。。」
後ろ姿のヤギの首が描かれていて、妙に艶かしいのである。
また、女性のヌードもあり、組んだ足の筋力を感じる不思議な魅力のある絵だ。
「高村光太郎が好き」という彼女だが、骨格を描ききるような彫刻的な絵を描いている。
以前は、静寂な趣で、木々や葉などをモチーフに描いていたので、骨太な感じには驚いた。
しかし、小さい頃にお絵描き教室に通い、高校時代は、油絵を描いていたというので、洋画独特の妙な遠近感があるのだろう。
大学は多摩美で日本画を専攻し、卒業後、仲間と集まってグループ展を開催。
はっとするいい絵を描くので、羅針盤セレクションなどの企画に誘ってみたら、案の定、小品は直ぐに完売した。
先日は、評論家のM氏がいらして、『君の絵には闇がある。それが魅力なんだよね』とも。
私が一番好きな絵は、金華鳥の絵である。
0号の小さい絵だが、表情がとてもいい。
名前などは見ないで、絵を鑑賞する研究者のSさんも『いい絵だねえ、覚えておくよ』と名前のない案内状を見ながらいう。
素敵な案内状ではあるが、なぜか、自分の名前を入れ忘れたらしく、豆粒のような字で、後から印字してある。
実にしっかり者のお姉さんのような彼女からは想像もできないようなミスだ。
しかし、Sさんのようにだれもが名前など見ずに、ただ案内状の絵と場所のみだけで来ていただけるなんて、作家にとっては、うれしいことではなかろうか?

2009.10. 2.Fri

メンテナンス

画廊も10年も過ぎると人間のみならず、疲労してくるものだ。
ここ数日の間に、クーラーが壊れ、看板が壊れ、電話機が壊れ、パソコンが調子悪くなった。
一気に機械系統が故障するので、意気消沈。
面倒くさがりなので、蛍光灯がきれただけで、部屋が暗いだけでなく、気分も暗い。
経営コンサルタントの友人が床が汚れているとお客の滞在時間が少なくなり、商品は売れなくなるというので、掃除の見積もりをみると目が飛び出るくらい高い。
メンテナンスにたいへんお金がかかるので、経営者は絶えずちょっとずつ貯金をしなくてはいけない。
ギャラリーの主なメンテナンスは、壁と床だろう。
真っ白な壁と床。
そうして、清潔な気持ちのいい空間に絵がかかっているというのが、理想だろう。
毎週、毎週、週単位で展覧会を行うので、汚れないはずはないのであるから、展示と展示の間に掃除をしなくてはならない。
今月は、メンテの時だと思うので、頑張って乗りこえたい。
しかし、私の場合は、困っていると、いつも、そこに助けてくれる人がいる。
実際には、何もせずにいても、誰かが私のかわりにボランテイア精神でやってくれたりする。
大騒ぎするのは、いつも私なのであるが、実際にやるのは、私の周りの方々なのである。
有難いことである。
皆様に感謝申し上げまする。


2009.10.10.Sat

窓をあけて

よこたこういちさんは、個展中は福島から来て滞在していた。
コラージュの作品で、5メートルくらいの大作を展示中。
ミニマルな要素とドローイングで見る人を楽しませている。
アイデアの人で、今回も四角い形を切り抜き、折り曲げて,高層住宅の窓がたくさん開いているのを遠くから見ているような作品を考えた。
心の窓を開けて!というような具合だ。
見る人によっては,いかようにもとれるが、ブルーのアクリルに白いペンでイタズラ書きのような線。
閉塞的な世の中を少しでも明るい気分にしてくれる、真ん中に黄色いミニマルな窓型のコラージュ。
初日からたくさんの人が訪れた。
福島のおみくじせんべいは好評であった。
地元では,ひょうたん屋さんでもある。
羅針盤では,昔、瓢箪展なども開催したが、よこたこういちさんのアイデアでもあり、この年回りは縁起がよろしかった。
また、漢方に詳しく、私の調子の悪いところを治してもらった恩人でもあるので、なにかと相談事をもちかけたりする。
家の裏山から湧き水を汲んで来てもらい、コーヒーをいれたが、たいへんおいしい。

2009.10.10.Sat

浅草オペラ

先週の日曜日は、よこたこういちさんの搬入と飾り付けが終わってから,夕方に高校の先輩が、美容業界のドンと見られる方をお連れしてくださった。
美容院を経営される前は、ボクサーだったらしいので、すらりとした長身で、まったくお年を感じさせない若々しさで、強く,やさしく、豪快で,大変カリスマ性をもった方だった。
これから、浅草オペラでもいかが?というので、お言葉に甘えてついて行った。
久しぶりのオペラは、大変楽しく、オペレッタだったので、とてもユーモアたっぷりで、かたくるしいところはなかった。
先輩は、美容院のソフトウェアの会社を経営しており、大変、飄々とした方で、あまりに自然体な方で、まったく気を使わなくてすむので,助かる。
美容界のドンとおぼしき方も先輩も私も出身地が同じという事もあり、一旗揚げようなどとは思ってないくらい欲のない感じなのがうれしい。
欲はない方がいいが,戦力はねらなきゃね!という会社経営としても先輩方のお言葉が心に残った。
いろんな方と知り合うのも楽しい今日この頃である。

2009.10.17.Sat

すきずき展 その一

「真剣だがねえ」
何がか?と言うと、絵を購入する事である。
「事務所に行くと、闘志と言うタイトルの絵がある。
50万負けて、仕事をとらねばならぬ。闘志を燃やして仕事をとるんだがねえ」
深谷市の名士とお見受けする建設業の社長さんは、口角泡を飛ばして、こう、おっしゃる。
『仕事をとるのは容易じゃない。が、仕事がとれたときには、ほっとするねえ。家に帰ると、チーターの絵がある。猛獣がやさしい目をしてるから、いいんだねえ。ほっとするがね。絵は癒しなんだよ。』
埼玉県はねぎの産地、深谷市というところに、たいへんユニークなコレクターさんらが15〜16人程いらっしゃる。
東京は上野から,普通で高崎行きに乗り、約90分程かかる。
着くと東京駅のような煉瓦作りのレトロなすてきな駅なのだ。
その方々の新作コレクションをその駅前にて、お披露目中だ。
明日までですが、たいへん楽しいのでみなさんもお出かけしてみて下さい。

2009.10.20.Tue

すきずき展 その2

すきずき展では、羅針盤で販売した作品がたくさん展示されている。
私のおすすめの松岡歩、岩坪賢、佐野紀満、小田恵理子などの作品が展示されている。
どれもが大変魅力的でいい作品ばかりだ。
こんなにいい作品を扱っていたんだなあと、自分ながら、誇りに思う。
また、自信を持ってお勧め出来た作品ばかりで、ホッとした。
名だたる高名な作家の隣に飾っていても、遜色ないではないか。
ああ、来て良かった。
自分の目を確かめるためにも、たいへん勉強になった。
お金を出して買っていただけることは、それだけ厳しい鑑識眼にさらされる運命にあるのだと思う。
コレクション展のあとは、深谷市の有名な料亭に連れていってもらい、懐石料理をごちそうになった。
若輩者の作家二人連れである。
なんと至福のひととき。
美味しいワインをいただきながら、えも言われぬ豪華な素材の懐石料理をしみじみ味わう。
これぞ、至福の至り。
究極の幸せ。
大好きな絵、美味しい料理、楽しい会話、それ以上に何が必要なのか?
楽しむために生まれて来たのだと信じて疑わない日であった。

2009.10.21.Wed

手塚 葉子 展

手塚さんは、二回目の二年ぶりの個展である。
みかんの皮を干して,インスタレーションをやると豪語していたが、やはり、所詮,みかんの皮。
腐ってカビが生えてきたと,あたりまえなことを大真面目に云っていた。
その後、ある有名な会社の広報部に正社員として入社した。
仕事は忙しく、だんだん制作から遠のくのではないかと心配した。
しかし、その心配はご無用で、ますます迫力が出て、勢力的になっているようだ。
搬入の日は、ボランティアの学生さんが来た。
学芸員実習の講義をとっていて、画廊でも実習体験がしたいというのだ。
21歳の茶髪。
今どきのおしゃれなイケメンくん。
しかも、頭のいい子で、物わかりがよく,気の短い私を怒らせることはなかった。
それどころか、終わってから、すぐにお礼のメールが来た。
楽しかったと。
性格もよく、もしかしたら、すごいやつになるかもと予感さえした。
作家の葉子ちゃんも喜んでいたので、仕事ははかどる、テンションは上がる、楽しい気分で盛り上がる、いいことばかりだ。
お酒は飲まないらしいので、ややつまらない。
なので、今度は豪華なお弁当をごちそうしよう。
自分からボランティアを申し出る心意気がいいではないか?
日本男子も捨てたものじゃないな。
すぐにお金を欲しがるさもしい精神の貧困な若者が増えている昨今の世の中で、額に汗して学ぼうという殊勝な心がけがいいではないか?
お金より素晴らしい宝物を彼にあげたいなあ。
それが何十年後かに実を結ぶような素晴らしい学びになるように。
私もやっと年齢をへて、そういう宝物を授けてあげられるような人脈をもてるようになったと思う。
人生の後半をどう生きるか、私もそろそろ試される年齢にもなったのである。

2009.10.24.Sat

長期の不在

「此の絵の作者、手塚さんには、この頃大きな変化があったのではないですか?」
と、とある業界関係者が鋭く指摘した。
今回のコンセプトは、「長期の不在」だ。
親愛なるおばあさまを失った悲しみを表現した『きっと「日常」の一部なんだと思う』というタイトルで描いた作品は、着物姿の女性の泣く姿もさることながら、涙の粒がロウをたらして表現されている。
指に何本も蝋燭を挟み、たらした蝋はかさぶたのように厚く盛り込まれた。
「長期の不在」というより、『超短期の在』と言うべき,短い生涯を送るわれわれ、生きとし、生きけるものの悲しみは、作家にとっても普遍的なテーマであるようだ。

2009.10.24.Sat

222.jpg


鑞のあとが、すごく盛り上がっている。

2009.10.24.Sat

葉子ちゃんスマイル

111.jpg
葉子ちゃんの後ろに描かれた顔の無い作品は、「塞ぐ まだ何も考えられない」とあるが、モデルさんらしい可愛い女の子が初日に来た。
とても仲がいいらしく、1日中、彼女に付きっきりだ。

私が一番気に入っているのは、「引っ張る 引っ張っているつもりらしい どちらが引っ張っているかわからない」という絵だ。

黒い服を来た見知らぬ人の洋服は、黒い鑞でいっぱいだ。

月刊 ボザールの4月号で、「目に見えない真実のかたち」という特集では、展示中の「レース編みとベリーケーキ」という、絵がどのようにして描かれたのか、下書きから完成までが丁寧に掲載されている。

「今回はケーキとレース編みをモチーフに選びました。ケーキとレース編みは、幸せや甘さ、優しさの象徴として描きました。それを画面いっぱいに配置することで過剰な様子を表しています。それが幸せの状態かどうか。少し違和感をもって頂ければこの作品はうまくいったと思えます。」

2009.10.30.Fri

アップル展

000.jpg


「たとえ、世界の終わりが来ても絵を描き続ける」
といったのは、誰だったか?
ちょっとど忘れしたが、アップル展のコンセプトは、たとえ、どんなことがあっても絵を描こうというメンバーのグループ展。
リーダ−の永井肇先生は、多摩美術大学で教鞭をとっておられ、その後は、保育園の子どもに絵を指導していた。
先生は、昭和三年、お正月にご誕生。
当年、80歳をこえて、お元気であったが、初夏に倒れたらしく、今も病状がよろしくないらしい。
昨年の展覧会では、毎日いらっしゃっる先生と精神病理学から宇宙論まで発展するくらいのおしゃべりに興じ、時間を忘れるくらいだった。
楽しい会話が充分にできないので、とてもさびしい。
先生の脳の中は、どうなってしまったのであろうか?
レモン色の黄色い空に、レモンの形の雲が浮かんでいる。
先生の好きなマリンブルーは、黄色い空や海に包まれ、マリンブルーの島には、船や帆船がたくさん
係留されている。
島には水族館もある。森もある。島ごと、船みたいだ。
先生は、何処にいかれようとしているのだろうか?
そんなことを漠然と考えた。
そして、晩年、ゴーギャンが夢見た楽園を永井先生も見ておられるのではないかと思う。
人は何処から来て、何処へ行こうとしているのか?
高村光太郎の詩にもあるように、智恵子がかじったレモン。
レモンの空は何を暗示しているのか?
先生が元気になることを予感させる絵だと信じたい。

2009.10.31.Sat

オカルトウイーク

昨日、ウルトラという青山のスパイラルのアートフェアに行った。
大変な混雑であったが、40歳以下の個性的なアートディレクタの一押し作家の作品が並ぶ。
あまりの人の多さによく見れないのが残念だったが、このところ、オカルトティックなことばかり続いたので、気分転換になった。
ちょっと急用があって、羅針盤をあけてもらった日,お留守番の福の神のじいさんから電話がなる。
それも公衆電話。
『鍵、ないよ。』(ブツ)電話のきれる音。。。。。。。
そんなはずはない。
焦った私は,落ちついて電話を待つ。
『大家さんのところに行ってくれえええ』というと、また電話がブツ。。。。。。
しばらくして、大家さんに見に行ってもらうと画廊はちゃんと開いてるし,看板も出てるよとのこと。
その後、大変なことがありますと、今度は自宅のマンションが漏水してるらしい。
やや絨毯等が濡れてる程度で水は止まったと云う。
胸を撫で下ろしたのも束の間、同姓同名のお客が現れる。
どっちが本物か,どちらが偽物かわからないうちに、なぜか販売成立。
狐に包まれたような気分で、帰途につく。
夢であって欲しいような気がしたが、どれも現実。
酔生夢死という言葉は好きだが、今回の私は酔ってるのか、酔ってないのかわからない酩酊状態で過ごした。
オカルトティックな一週間だった。
永井肇先生、守ってください。
宜しくお願いします。

 


   

  〒104-0031 東京都 中央区 京橋 3-5-3 京栄ビル2F
TEL&FAX 03-3538-0160

E-mail info@rashin.net