名前のない案内状
石川ちひろの絵にうなじという作品がある。
本人いわく、「ヤギ、好きなんですよねえ。。。とくにうなじにうっとり。。。」
後ろ姿のヤギの首が描かれていて、妙に艶かしいのである。
また、女性のヌードもあり、組んだ足の筋力を感じる不思議な魅力のある絵だ。
「高村光太郎が好き」という彼女だが、骨格を描ききるような彫刻的な絵を描いている。
以前は、静寂な趣で、木々や葉などをモチーフに描いていたので、骨太な感じには驚いた。
しかし、小さい頃にお絵描き教室に通い、高校時代は、油絵を描いていたというので、洋画独特の妙な遠近感があるのだろう。
大学は多摩美で日本画を専攻し、卒業後、仲間と集まってグループ展を開催。
はっとするいい絵を描くので、羅針盤セレクションなどの企画に誘ってみたら、案の定、小品は直ぐに完売した。
先日は、評論家のM氏がいらして、『君の絵には闇がある。それが魅力なんだよね』とも。
私が一番好きな絵は、金華鳥の絵である。
0号の小さい絵だが、表情がとてもいい。
名前などは見ないで、絵を鑑賞する研究者のSさんも『いい絵だねえ、覚えておくよ』と名前のない案内状を見ながらいう。
素敵な案内状ではあるが、なぜか、自分の名前を入れ忘れたらしく、豆粒のような字で、後から印字してある。
実にしっかり者のお姉さんのような彼女からは想像もできないようなミスだ。
しかし、Sさんのようにだれもが名前など見ずに、ただ案内状の絵と場所のみだけで来ていただけるなんて、作家にとっては、うれしいことではなかろうか?