« メダカのふ化 | | 池田満寿夫との出会い »

しっぽがない絵

父が急病にて入院したため、急遽、実家へ帰省していた。
才能あふれる作家を残しては帰りたくなかったが、もし,父と最後の別れが出来なかったら、後悔するかもと思い,思い切ってお見舞いに帰った。
加藤優香の作品は、今年の卒業制作展で見ていた。
圧倒されそうなエネルギーで、時代を凌駕する新星と直感した。
ナイーブな感性と抑制する知性のバランス。
痛覚をともなう胎内回帰の感覚は、時代の病理も背負っている気がした。
それは彼女の無意識がそうさせるのか,いや,そうではない,と思った。
時代が彼女を選んだのかもしれず、それは少女特有のセンセーショナルな内面に呼応していた。
構成力や空間の把握は、先天的なものであり、色感は、彼女のこころの闇の深さであり、画面を甘いものにさせない抑制力は彼女の知性が凌駕するからだと思った。
色の濃淡やにじみ、縫い合わせるように糸を紡ぐ行為などによるマチエールのこだわりは、皮膚感覚から発したものであり、それを云々する気もなく、まったく日本画の伝統や技法にとらわれない、『しっぽがない』絵画であった。
『先生のしっぽがないねえ,ないどころか,先生を踏みつけて歩いてるよ』と画廊で朝食のおにぎりを食べながら福の神は云った。
海のそばで育った優香さんは、家に住んでいたヘビの抜け殻や猫の皮膚や真っ赤な夕焼けのスナップなどのネタ写真も公開展示した。
子宮や胎内で細胞が動きだし,血が巡る感覚.
それが生きているという事なのだが、痛みがあって初めて,生きているという事を感じることもある。
リストカットを繰り返す少女のように、痛みを感じなくては生きて行けない,そういう病理を背負った時代を映す鏡としての絵画を彼女の絵から感じたのであった。
3日を留守にしてたいそう気がかりであったが、名古屋から気の置けない友人のギャラリストが彼女に作家としての心構えというか、なにかと語りかけてくれたという話をきいて、うれしかったし、ありがたかった。
心優しく、頼もしい友人はかけがえのないものだと思う。

 


  〒104-0031 東京都 中央区 京橋 3-5-3 京栄ビル2F
TEL&FAX 03-3538-0160

E-mail info@rashin.net