「大田和あさぎさんは、パリに住んでいるんですよ。」とある評論家に紹介。
すると、彼は、あさぎさんをじっと見て、「僕には日本人にしか見えない」と更に見つめるので「正真正銘の,日本人です」と一言。
栗色風の髪に,色白のほっそりした顔立ちで、西洋の人形みたいだ。
あさぎさんは、パリに渡り、三年目を迎える。アーティストビザで、留学し、絵を描いているが、パリは物価が日本の倍で、作品が売れても、税金も高いため、生活は苦しいという。
昔、森有正という哲学者がフランス語で書いた日記を翻訳で読んだことがあるが、フランスで日本人が感じる憂鬱と孤独は、壮絶だ。
森有正には,フランス人の恋人がいた。
その恋人にむけて,フランス語で語りかける日記なのだが、深い孤独に比例するように、愛は深まるのだということがわかる。
あさぎさんの日々の様子が手に取るように分かるスナップ写真のような一枚一枚の絵から、光と影,昼と夜のコントラストが浮かび上がる。
夜の街頭と白い月。
朝の白いもやのかかる公園。
南フランスの陽光を浴びながら、ふり向く少女と自転車の大きな長い影。
一番印象的なのは、苦悩する手だ。
手の表情だけで、フランス人の若い男性の苦悩が読み取れる。
深く刻まれたしわがない手。
苦悩も孤独も、森有正の孤独や愛には遠いだろうけれども。