開学70周年 金沢美大同窓会 金の美 大展覧会

篠田 守男 地球展

2016.9.12.Mon.〜9.17.Sat.

11:00〜19:00

※最終日17:00まで






篠田守男経歴

1931  東京都目黒区駒場町に生まれる。
1953  青山学院大学第二文学部英米文学科中退
1963  アート・インステイテユート・オブ・シカゴに留学[~ 64年]
1966  ヒユ―ストン・ファイン・アート・ミュ―ジアム付属美術学校講師として渡米[~ 68年]
1968  カリフォルニア大学ロスアンゼルス校准教授[~ 70年]
1976  コロラド州立大学およびミネソタ大学客員教授として渡米[~ 77年]
1979  筑波大学芸術学系教授[~ 94年]
1994  長崎大学大学院専任教授[~ 96年]
2003  金沢美術工芸大学大学院専任教授[~ 09年]

個展

1963  Guild-Hall Gallery(Chicago)をはじめとしてHouston,Texas,Dusseldorf,Germany,
London,United Kingdum,および日本において個展多数。

  受賞

1956  新人賞『第6回モダンアート展』
1965  神奈川県立近代美術館賞『宇部市野外彫刻美術館・第一回現代彫刻展』
1966  第9回高村光太郎賞(『テンションとコンプレッション』の連作により)
1973  優秀賞第1回彫刻の森美術館大賞展
優秀書第4回中原悌二郎賞
1975  大賞第2回彫刻の森美術館大賞展
1992  第4回朝倉文夫賞
2000  アメリカ国際彫刻センター彫刻教育者賞 Outstanding Sculpture Educator
2000 by Sculpture Center

 設置作品

東急電鉄・たまプラーザ駅前モニュメント、新宿新都庁舎、IBM―飯倉ビル・モニュメント
横浜市新田緑道モニュメント、牛久駅前モニュメント,東京都先端技術センター、
ヒューストン・テキサス警察へツドクオータース・ビルデイング(アメリカ)

  コレクション

東京国立近代美術館、栃木県立美術館、神奈川県立近代美術館、彫刻の森美術館
軽井沢セゾン美術館,金井現代美術館(釧路市),広島市現代美術館、ふくやま美術館
高松市立美術館、徳島県立近代美術館,東京都現代美術館、札幌芸術の森美術館
旭川彫刻美術館、台東区芸術・歴史協会、和歌山県立美術館等。
ルイジアナ美術館(デンマーク),ロックフェラー三世夫人コレクション(ニュ―ヨーク)
ヒューストン・ファイン・アーツ美術館(アメリカ),ニーマン・マーカス・デパート
(ダラス・アメリカ),ニューハウス・コレクション(ニューヨーク),フレデリック・
ワイズマン・コレクション(ロスアンジェルス),ウイリアム・リーバーマン・
コレクション(メトロポリタン美術館),アルフレッド・シュメラ・コレクション
(デユツセルドルフ、ドイツ)他 



 篠田守男の作品の特徴は、ワイヤーを用いて金属塊を宙に固定することで生まれる反重力的な緊張感や物理的不思議さであると言われることが多いが、これは再現性のある表徴に過ぎず、本質ではない。また、彼の作品が具象性と抽象性とを併せ持つことは確かだが、これも美術史的な意義にとどまる。
 仮にそれらが本質的なものであるとしたならば、彼の長年にわたる創作活動によって呈示されてきた無数の作品群における物理的同質性を越えた度重なる新規性の説明がつかない。
 恣意的な勘繰りを捨て彼の作品と対峙すると、その端々に覚えるのは、どこか温かみを帯びた金属彫刻などという成句とは無縁の、厳格なるダンディズムの希求である。これこそが、彼の作品の特徴であり、本質ではなかろうか。
 なるほど、彼の立ち居振る舞いには格好のよさがにじむ。これを、十九世紀初頭に貴族的美意識から誕生したダンディズムへの傾倒とみるのだ。一方で、いくら身を律しようとしたところで抜け落ちるもののあるのが人間の常であり、彼とて例外ではない。それでもなお厳格さを志向するのであれば、否が応にも精神の緊張が生じる。
 彼は頑なにダンディズムを追い求める。自虐的なほどの危機感を伴った精神の発露が投影されているのだとすれば、作品が宿し続ける新規性にも納得がゆく。
 緊張状態は、宿主の持つ身体性と精神の志向する先とのあいだに、大きな隔たりを生んだ。その結果、彫刻家・篠田守男は、人間・篠田守男から孤立せざるを得なくなったのではなかろうか。自己の排斥によって、二度目の誕生を彫刻家として迎えたのだ。
 彼の身体的スケールを作品中に定義する「篠田尺」という擬態が存在する。この禁欲的に小型化された男女対の化身が作品のなかに姿を現わすこともまた、自身を以って「シャイ」であるとする彼の真実である。三人称化した自己の精神を定着させ、同時に身体性を定義せんとする台座の存在が浮かび上がる。
 孤立した彫刻家の精神は、常に、新たな礎となる、ダンディズムを標榜するに足る身体性と精神の憑代なる台座を希求しながら彷徨ってきたのだ。作品世界に疑似的な面を展開すると同時に、彼の欲求の現実でもある。私たちが眼前にする彼の作品は、その痕跡にほかならないのではないか。
 見果てぬ自身の在り処へと一層の彷徨いを見せる彼が「篠田守男地球展」を開催する。地球に身体を捕えられながらも、彼の旅は成層圏を抜け出るに至った。
 重力のベクトルは、我々の球体の中核へと向かう。世界中に散在する彼の作品のベクトルが一斉にそこを目指す様は、あたかも卵子へと突き進む精子の競争のようである。ここに加わる新たな作品群によって、今もって彼は、安寧秩序とは程遠い場所にいることが確認される。

松永哲也(批評家) 



 


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