篠田守男
1931年 東京都生まれ 筑波大学名誉教授・彫刻家
鋼鉄線の張力と圧力で金属塊を中空に固定させるTension and Compressionシリーズで知られる金属彫刻で、奇妙で不思議な空間を創出。
作家WEBサイト:http://www.morioshinoda.jp/
日本国際美術展、宇部市現代彫刻展などに出品。
66年ベネチア・ビエンナーレ展に出品、第9回高村光太郎賞を受賞。
以後、第一回現代日本彫刻展神奈川県立美術館賞、第二回彫刻の森美術館賞、第4回朝倉文夫賞など次々に受賞。
2000年には国際彫刻センター優秀彫刻教育者賞をアジア人として初受賞。
私は1955年に初めて彫刻らしきものをつくりました。もともと美術を学んだことのない人間が作るのですから今から思えば美術といえるかどうか?しかしモダンアート展に出品したらまぐれで入選してしまったのです。多分、無知なる人間の作るものなので新鮮に映ったのでしょう。戦後10年、まだ混乱が治まってはおりませんでした。当時は平入選でも新聞に名前がでました。今から思えば笑止千万ですが、すっかり作家きどりでした。おそらく残る幾ばくかの人生の中で、これ以上の作家感を持ち得ることはないでしょう。しかし、新聞に登場した篠田守夫(本名)という4文字がその後の私の人生を狂わせてしまったのです。生み出す苦痛、しかし生んだ直後の短い快楽、いや、誠に短い快楽!このリズムは今でも代わりません。それどころか、繰り返していることによって快楽への期待から苦痛を容認しているのか、永遠の苦痛を求めているのか定かでなくなってくるのです。これはマゾヒズムの境地に近いでしょう。
昨年13年ぶりに横浜で個展を開催しました。この13年の無制作と重い思考の重圧から逃れたのが昨年の個展でした。それから半年、何かからの逃避ではなかったのか。
冒頭に記述したごとく作家感という大きな風船はどんどん萎んでおります。80を越えそのスピードは度を増しております。いっそのこと風船がなくなってしまったらいいのに。とも考えます。ところが煩悩が邪魔してなかなか難しいのです。この度の個展はそれを払拭する実験その1となります。
私は1958年から昨年の個展まで54年間テンションとコンプレッションという構造で作品を作り続けてまいりました。これは無知な素人彫刻家が世に受け入れてもらう最大の手段でした。私は図書館にかよい美術館を巡り彫刻とは何か、とめどもなく見て歩きました。その結果、結論をえたのはその殆んどが地球の重力を当然のこととして容認するか無視するか、でした。そこで私としては『重力』は『あるんだぞ』というとるに足らないテーマに取り憑かれてしまったのです。『在る』ということを調べるためには『無い』ということを調べたらいい。一般的にはこの作品はなんで『浮いて』いるんだろうという疑問が私を得意にさせました。
そしてこの私をして得意にさせた『重力』への感謝の意味からもこの度の個展はなりたっています。従って個展のタイトルは篠田守男『重力の恩寵』となっております。以上お含みの上御覧頂けると幸いと存じます。そして狭いながらもシノダ・ワールドに踏み入ってくださったことと、この世界を共有出来る喜びとともに筆を置きます。篠田守男
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