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指先に宿るエロス

荒井裕太郎の彫刻を見て、『羅臼(ラウス)昆布みたいね。北海道の海にただよう昆布みたい』という。
何者をも連想させない、イメージをもたせないような彫刻だが、人は彫刻という存在の物体を何かしらかに見立てようとするのだろう。
実際には、1.2ミリの薄い鉄板を手でおりながら、一発勝負のように偶発的に出来た造形らしい。
鉄という固い金属を袋状にし、それを折り曲げながら、造形するので、先にデザインがあるのではないという。
裂いたり、折り曲げたりしながら、そのひん曲がった形に向かい、『そうでたか?なら、それを生かそう』という具合に、素材と対話しながら作るのだという。
無理にねじ曲げたり、強制的に作り込むようなやり方ではないところに作家の性格が滲み出ている。
又,却って自然な形でそこにあるかのような存在感を際立たせている。
らうす昆布と見立てた女性は、ピアニストらしいが、ピアノも鍵盤と対話し、そこには必ずエロスがあるのだという。
『この彫刻も指先に宿るエロス的対話があるのでしょう?』といい、本人がいないからもっと話すけれど、『彼の作るジュエリーも女性を象徴するような形でエロチィックよね』という。
上に伸びていく袋状は、まさに男根的でもあり、花のようでもあり、裂いた隙間から見える空洞はなんにもない空っぽだが、めくれ上がった細部には、何かしらの淫微な風情がある。
鉄で出来ているようには思えないほど、しなやかで艶かしい革のような質感はどこから来ているのか?焼き付け塗装ではあるが、熱帯魚のような黄色や赤の鮮明な色の彫刻もある。
袋状の形態を折り曲げながら作る有機的な曲線。
魚を触ったときのようなぬるっとした質感。
触りたくなるような触覚性が魅力だ。
いつも、鉄をなで回している彫刻家の手。
その艶かしい指の動きを感じる、ピアニストの指。
指に反応する音楽家にインスピレーションを与える作品であることは間違いがない。

 


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