－ 境界線 －

私は2010年から「境界」をテーマに制作を続けてきました。それは窓から外の景色を見たときに、窓の内側と外側とで別の世界が広がっていることに気づいたことから始まりました。言うなれば窓の内側には人間社会が、外側には自然が存在します。窓を境に性質の異なる世界が広がるということが興味深く、以来「境界」をテーマにするようになりました。
　私たちはあらゆる場面で「境界」を用います。そのことで物事を区別・整理し、行動へと繋げるのです。私たちが物事を理解する上で必要不可欠のものと言えるでしょう。しかし、同時に私たちは「境界」に悩み、苦しみもします。どこに境界を設けるのか、誰もが最善の形を探りながら、錯誤しながら生きていると思うのです。
　
私はこれまで「窓」を境界の象徴として捉え、矩形を据えた作品を描いてきました。また、内面的な意味での「境界」の象徴として「本」をテーマとしたことがあります。窓や本の集合体を描くこともありましたが、それは社会を意識・表現したものでした。何れも象徴物を通した間接的な「境界」の表現です

今回の展示作品は水平線・地平線を描いたものです。それらは視覚的に明確に認識できる境界線です。継続した取り組みの中で、よりシンプルに、直接的な「境界」の表現を求めた結果です。また、水平線や地平線は言うなれば「自然界」に存在するものであり、ひいては「自然」を象徴するものです。「自然」の中に身を置き、見つめた景色を描くことで、複雑な現代社会を生きる私たちの「人間としての原点」を思い起こしているのかもしれません。